アフターアウトリーチin高津高校

<日程>令和 5 年8 月 18 日(金)13:00~17:00
<会場>川崎市立高津高等学校
<参加者>高津高校演劇部 18名
<講師>河田園子(演劇企画 JOKO)
<アシスタント>原田亮(Platanus)

【はじめに】
2019年から川崎市内の高校演劇部が集まる合同ワークショップを開催してきました。今年度からは合同ワークショップ参加校それぞれの演劇部が必要とする内容に特化した「アフターアウトリーチ」まで発展させて、開催を希望した高津高校演劇部を訪れました。

合同ワークショップから引き続き、講師:河田園子さん、アシスタント:原田亮さんが事前に演劇部から取り組みたい内容や普段抱えている演技の悩みを聞き、希望に合わせたワークショップを行いました。

河田さんからは「年に一回の合同ワークショップだけでなく、日々の部活動でどう応用するか、その後の公演にどう繋げられるかを一緒に考えよう。頭で考えるのが得意な人、体を動かすのが得意な人、みんなにとってプラスになるように、気になったことがあったらなんでも聞いてほしい。」と投げかけ、ワークショップのスタートです。

【日々の練習にもワンポイント】
最初に普段の部活動での基礎練習を行ってもらい、講師からアドバイスをしていきます。
発声練習では声を出すために正しい姿勢をつくることから意識しなければなりません。ボリュームを上げる、早く話すことが目的にならず、ウォーミングアップから一つ一つの言葉を丁寧に「伝える」というイメージを持って取り組みます。

筋力トレーニングではプランクの姿勢をキープして体幹を鍛えました。メジャーなトレーニングではありますが、ここでもアドバイス。舞台上では常に体が動き続けるため、静止よりも動きのある体幹トレーニングが効果的です。そこでプランクをしながら体をひねったり、片足を上げて動かしたりします。普段の基礎練習に一工夫を加えて、何のためのトレーニングなのかを明確に意識します。

【ゲームで鍛えるアンサンブル(調和)】
基礎練習を終えたらシアターゲームで演劇のトレーニングをしていきます。
まずは教室の中を全員がランダムに歩き、空いているスペースを埋めるように動き続けます。全体を見ながら歩けるようになったら、目的を持って動くことにチャレンジです。それぞれが誰か一人をターゲットに決めて、そのターゲットと自分の間には常に別の人がいる状態になるように歩き続けます。
次はターゲットを二人決めて、その二人と自分の位置が正三角形になるように動き続けます。ターゲットの二人を見失わず、動きに合わせて自分の居場所を変えていきますが、それだけに集中しすぎると他の人にぶつかってしまいます。
ゲームを通して目の前の目的に対する集中力と、俯瞰して周りを見渡す視野の広さという演劇に必要なスキルを同時に鍛えます。

次のシアターゲームでは気持ちを一つにします。
円になって呼吸を合わせ、合図無しで全員同時にジャンプできるように挑戦です。最初の数回は息が合わずなかなか同時にはいきません。
一人でも惰性的にやっていたり誰かが引っ張ってくれるのを待っていたりするとアンサンブルが壊れてしまいます。大切なことは全員で空気を作り、どう伝えるか。それを受け取ったときに「今だ!」という直感、衝動を信じて動けるかです。
アドバイスを受けて息が揃ってくると最後には何度も全員でのジャンプを成功させました。

【舞台上ではみんな自由に!】
次のグループワークでは6人組を作り、常に3人が立っていて3人が座っている状態を作ります。
ずっと同じ姿勢にならずに、誰かが立てば誰かが座る、誰かが座れば誰かが立つという制約だけでストーリーが生まれるように動いてみました。ゲームを続けるうちに、先輩が流れを作り、後輩はその動きを待って後に続くような上下関係が見られました。
「自分は先輩だから、相手は部長だからといった普段のレッテルは舞台上では貼らないでほしい。思いやりは必要だが礼儀正しさはいらない。」と伝え、無意識に染みついている上下関係を取り払います。
普段は先輩後輩でも舞台の上では全員が対等な立場です。自分の立場に縛られず自由に取り組んでもらいます。

【心も体もリラックス】
たくさん動いた後は一旦リフレッシュ。「アレクサンダーテクニーク」の一部を体験します。これは19世紀にオーストラリアの俳優フレデリック・マサイアス・アレクサンダーが創始した体の使い方を学ぶ技法です。
体の不必要な緊張を自覚してそれを解消することで、パフォーマンスの向上や身体的な痛みの解消に繋がり、演劇だけでなく歌唱、演奏、運動の分野まで幅広く取り組まれています。

今回は二人一組になって、一人は仰向けで寝転び、もう一人がペアの手や足を動かして体を自然な形に整えていきます。
力を抜いて寝ているつもりでも体のクセや歪み、無意識に生まれる緊張があります。
時間をかけて体を自然な形に整えてからゆっくりと立ち上がり体を動かしてみると、参加者からは「体が軽い」「力は抜けているのに姿勢よく立てている」「縮んでいた体が引き延ばされて背が高くなったような感覚」と、その効果に驚きの声が上がりました。

【演じ慣れた台本から新しい発見】
演技のワークショップでは「目的と障害のインプロ(即興劇)」を行いました。
役を演じるにあたって、そのシーンで自分は何をしたいのか、それに対して何が障害になっているかを意識します。

部員から代表して二人に出てきてもらい、即興で自分の好きな映画の話をして映画館に誘う「目的」、だが相手は興味をもってくれない「障害」という設定で演じます。
一回目は映画の話をするということに集中して淡々と話していましたが、相手の目を見て伝える意識を持ってみてとアドバイスすると二回目は声が大きくなり、トーンが落ち着きます。最後は相手が好きな人でデートに誘う設定で演じてみると、同じ会話でも熱量が上がって身振り手振りもついてきました。

事前のリクエストでは自然な演技、自然な声のトーンがわからないという質問が多くありましたが、「目的」と「障害」を意識することで会話に見合う声や動きは自然と出てくることを実践しながら体感します。

最後に演劇部が今回のアウトリーチ直前の夏公演で上演した台本のワンシーンを演じ、プロの演出家からのアドバイスをもらいました。
ここでも役ごとに「目的」と「障害」の意識を強く持ちます。この役は何がしたいのか、何が障害になっているのか改めて考え直して設定を明確にしていきます。
さらに台本に捉われずにインプロで自分の目的を果たすために動いてみると、役の「目的」は変わりませんが、言い慣れたセリフに対してインプロの方が相手を動かすために必死で伝え、それを受け取る意識が強くなりました。

【最後に】
あっという間に過ぎた4時間のワークショップでしたが、事前のリクエストを基に、日々の活動や実際の演技へのアドバイス、新しい練習方法から演劇に対する心構えに至るまで盛り沢山の内容となりました。
講師の河田さんは「ワークショップを通して、みんなで一つのものを作るという意識を習得できています。今日やったことから今後の部活、本番に向けて何ができるか考えてみて」と締めくくりました。

今回、合同ワークショップを経て、高津高校演劇部の部員一人一人からもっと学びたい、やりたいというリクエストの声が上がり、このアフターアウトリーチの開催に繋がりました。これまで抱えてきた小さな悩みを解消しながら自分たちの普段の部活動、上演台本に落とし込んで具体的に体感したことで、部員一人一人だけでなく演劇部全体にとって大きな力になったでしょう。

【参加者アンケート抜粋】
・これからも演技に向き合うものとして、本日の体の使い方、ほぐし方は今後にもつなげていけると思いました。自分の力にできるように頑張りたいです。
・とても楽しくためになる時間でした!たくさんの質問にみんなで動きながら、楽しみながら教えてくださってありがとうございます!
・どのように部活の中で取り入れていけるかわかってよかったです。
・一つのシーンをとことん追求するのは見ていて面白かった。台本に捉われすぎないことが大事なのだと思った。
・プロの方の普段ではお聞きできないアドバイスをたくさん頂けてうれしかったです。たくさんのお話がとても学びとなりました。

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