新演劇部で創る合同ワークショップ
<日程>令和4年6月11日(土)14:00~17:00
<会場>学校法人桐光学園 小学校体育館
<参加校>桐光学園、住吉高等学校、菅高等学校、新城高等学校、生田東高等学校 カリタス学園、高津高等学校、大師高等学校 計8校
<参加者>57名
<講師>河田園子(演劇企画JOKO)
<アシスタント>原田亮(Platanus)
今回のアウトリーチでは、川崎市内の演劇部がある高校8校から演劇部員が集まり、「演劇創り」に焦点を当てたワークショップを行いました。当初、新演劇部員のワークショップで考えていましたが、コロナ禍で2~3年生も十分な部活動を行えていないということで、全学年を対象としました。
新しい出会いの中で演劇を通して自己表現することの大切さ、演劇をやることとはどういうことか?などを複数校で共有し、「演劇に触れる場」をつくっていきます。
【はじめに】
参加者たちは初めて会う他校の生徒を前に、お互い緊張の面持ちです。
そこで講師の河田さんが「今日ここに集まっている人たちは演劇部に入っているという『仲間』です。」と切り出します。
さらに「演劇は一人ではできません。今日のワークショップでも、楽しいことがあったら一人で楽しまないで必ず隣の人と一緒に楽しもう。そして何か悩んでも一人で抱えず、どうしたらいいかな?と隣の人と共有していこう。演技は英語で「Play」と言います。そして「Play」には遊ぶという意味もあります。今日は固くならずに、まず遊んでみて、そこから演劇を創り上げてみよう。」と声を掛けて参加者の緊張を解きほぐし、いよいよワークショップが始まります!
【遊びと演劇が繋がる】
まずは音楽に合わせて体育館の中を自由に歩きまわります。次にスペースを意識して、固まったり離れすぎたりせず、全員で空いているスペースを埋めるように歩きます。
最初はうまくいきませんでしたが、少しずつ河田さんからアドバイスが入ります。
「空いているスペースを探すといっても地面を見てはいけない。顔を上げて、すれ違う人と目を合わせる。常に人を意識することで、周りとの関係性を作りやすくなる。」
下を見ていると視野も狭くなってしまいます。今度はしっかりお互いの顔を見て歩きます。その結果、ぶつかりそうになることも少なくなり、57名という人数でも、スムーズに歩くことができました。
次のゲームではグループに分かれて円をつくります。全員に「冷たい氷上に浮かんだ細いロープの上に立っている」と、想像してもらいます。このロープから落ちないように「名前順」や「誕生日順」のお題に沿って並び変われるか挑戦です。
さらに「誕生日順」はノンバーバル(言葉を使わない表現)で伝え合おうと難易度を上げました。全員でイメージした細いロープから落ちないようにノンバーバルによるコミュニケーションを楽しみながらも関係性を深めていきました。
アイスブレイク(初対面同士の緊張をほぐす)を目的としたゲームでしたが、ただ遊ぶだけでなく、スムーズに目標を達成するためには空間把握や想像力、意思疎通といった演劇に大切なスキルが必要になります。ゲームを楽しむための講師からのアドバイスが、そのまま演劇のコツに繋がっていきます。
【即興で表現!「何してるの?ゲーム」】
「何してるの?ゲームとは」
まずは一人がジェスチャーで何かの動きを表現する(本を読んでいる、料理をしている等)。
そこにもう一人が加わり、並んで本を読む等、一緒に演技する。その後「何してるの?」と聞くと、最初にいた人は[後から入ってきた人にやってほしい動き]を伝えて交代する。指定された動きを即興で表現していると、また別の人が入ってきて…と入れ替わっていくというゲームです。
さすがは演劇部員、すぐに飲み込んで即興を楽しんでいました。アシスタントの原田さんからは「ここで一番大切なのは、二人でお芝居できるかということ。一人で表現するのは簡単。でも相手が来た時に乗っかることができるか。返すことが出来るかが重要。」とアドバイスがありました。
【30分で作品創り!?】
いよいよここからはグループごとに作品を創ってもらいます!しかしいきなりは難しいものです。そこで細かくステップを区切って進めていきました。
① グループでテーマとなる「学校行事」を一つ決める。
② その行事をストップモーションで表してみる。
③ ②を「2コマ目」にした、4コマの作品を創る。
④ さらにセリフをつけて1つの物語にする。
ただし、ランダムに配られたセリフを必ずどこかで使う事
(「まさか、お前は!」「だれか助けて!」「置いていかないで!」等)
⑤ 最後にタイトルをつけて発表
やることがどんどん増えていき戸惑いながらも、気付けば自分たちで考えたテーマが肉付けされていき、ひとつの作品になっていきます。
先に動きをつけてからセリフを加えた事にも意図がありました。
最初からセリフを考えると、言葉だけで表現しようとしてしまいますが、動きだけでの表現から始めたことで、参加者たちも自分の体をダイナミックに活用して演じていました。
一度動きを完成させた作品に突拍子もないセリフが加わり混乱しますが、そこから更なる化学反応を見せ、すぐさま新たな展開を組み込んでいきます。
最後に作品のタイトルを決め、グループごとにステージで発表しました。
① ドキドキ♡告白大会
② 大・騒・動
③ 魑魅魍魎
④ ハプニングはいつも突然に
⑤だるまさんが告白した
⑥ 曲名「おとうちゃん」
⑦ 第16話「かずちゃん大ピンチ」
河田さんから
「全体的に、短い時間で創ったにも関わらず起承転結がしっかりとできていた。後から配られたセリフも作品の中に違和感なく馴染めていた。また、とても自由に思い切って演技できていたのが良かった。上手くなくても勇気をもって堂々と演技することで、間違えたとしても、それさえ演出だと思わせる力がある。」
その後はグループごとにアドバイスがありました。作品の構成から、周りにいる一人一人のリアクションがもたらす力、些細な演技に至るまで細かく話し、参加者たちもただ作品を創った達成感だけで終わらずに、プロの目から自分たちの長所、短所を言ってもらえるという機会に真剣な表情で聞いていました。
【お悩み解決!質問コーナー!】
同じ演劇の世界で生きる先輩である講師のお二人に参加者たちから演技のコツや、演劇部での悩みまで多くの質問がありました。そのうちいくつかを抜粋します。
Q.中高一貫の演劇部で、下の中学生にとっては演出や先輩に意見を言いにくい環境になっている。フラットな関係性にするにはどうすればいいでしょうか。
A.下から環境を変えることは難しい。今日やったようなゲームを上下関係なくやってみて、上の人が手を差し伸べてあげるといい。
A.中学生が演出をやってみたりする。そこで上の人は否定せずに意見を聞いてみて、改善点を一緒に考え、お互いに言い合える空気感をつくろう。
Q.舞台上で棒立ちになってしまう。動き方のトレーニングはありますか?
A.言葉だけで表現しようとすると体が動かなくなってしまうから、今日みたいに先に体を動かす表現から入ってみるといいと思う。ノンバーバル(言葉を必要としない)な表現だけで芝居をするのも練習になる。
A.今みんなが話を聞いている姿勢だけでも座り方、クセ、呼吸の仕方に違いがある。大きい表現だけでなくなく小さい表現から考えてやってみるといいかも。
Q.どんな脚本に面白さを感じますか?
A.色んな作品を読んでいるから大体わかってしまうけど、読みを裏切られる作品は面白い。
A.どんな作品もたどり着く場所や言いたい事は同じ。それをどう伝えるかが違ってくる。脚本も大事だけど、それをどう面白く出来るかは表現者次第。
【最後に】
河田さんから
みんな演劇が好きだという事が伝わってきてパワーをもらえた。
少し足を伸ばせば東京があるし、今はWEBでもたくさんの演劇に触れることが出来る。いっぱい触れるチャンスがあるからたくさん見て欲しい。その内、こんな作品がつくりたい、こんな芝居がしてみたい、というところから将来の進みたい道に繋がるかもしれない。
原田さんから
みんな自由に楽しくやっていて感動した。青春を思い出した。
稽古場も楽しめる環境でないと、面白い作品は生まれない。だから稽古場は復習をする場所ではなく、新しいことを発見する場所にしてください。新しいことにチャレンジする方がワクワク、ドキドキできる。
そして役者も演出家も一緒になって思ったことを語り合い、いっぱいケンカして作品を作ってください。
ここ数年のコロナウイルスの影響もあり、高校演劇では多くの制限を強いられ、演劇を学べる場、他校との交流の場が少なくなっているようです。今回もまだまだコロナウイルス感染症対策を施しながらの開催ではありましたが、8校57名もの参加者が集まってくれました。
参加してくれた演劇部員たちは、違う学校という枠を乗り越え、楽しむときは一緒に楽しみ、意見を言うときは遠慮せず語り合い、まっすぐに交流を深めていました。
また、今回のワークショップでやったことを学校の部活動でもやりたいという声が多くありました。このワークショップを通じて出会った「仲間」を中心に、演劇の楽しさが広がり、川崎市の演劇部がより一層繋がって高め合える一つのきっかけになれば嬉しいです。
【参加者アンケート抜粋】
・とても楽しかったです。自由にたくさん動けて心が解放されました。
・今回のように話し合って起承転結を作る企画が面白かった。自分で台本を作るときも今回のことを思い出してみます。
・とてもためになる楽しい時間をありがとうございました。
・他校の方とも仲良くなれたのでとても充実な時間を過ごせました。
・収穫できることがたくさんありました。表現や動き方など一つ一つを意識して、部活動でもつなげていきたいです。
・普段、他校の人と交流することがないので新鮮でした。また機会があったら参加したいです。
・今回の様な創作芝居をまた部活内でやってみます。
・楽しくて気付いたら時間が終わっていました。演劇のことについて色々と知れました。
・他校と関われるイベントがないから、どんどんやってほしい。
・はじめは緊張したけど、時間が経つにつれて仲良くなった。
・アットホームな感じ。普段の部活動のように自然体で楽しめました。